硝子体注射(抗VEGF薬硝子体注射治療)について
黄斑浮腫をはじめ、深刻な視力低下の原因になる眼科疾患の多くは、もろい新生血管が増殖・成長し、そこから漏れた血液や血液成分によって引き起こされています。
抗VEGF薬治療は、原因物質であるVEGF(血管内皮増殖因子)の働きを抑制するルセンティスやアイリーア、ベオビュオといった薬剤を硝子体内に注射することで、新生血管の増殖・成長や血液・血液成分の漏れを抑制し、浮腫の退縮を促進する画期的な治療法です。
治療適応疾患
糖尿病網膜症(糖尿病黄斑浮腫)
糖尿病の高血糖によって網膜の毛細血管が大きなダメージを受ける疾患です。糖尿病腎症、糖尿病神経障害と並ぶ糖尿病の三大合併症の一つです。
網膜の毛細血管が高血糖によって障害を受けると血流が悪化して血液や血液成分が漏れたり、血管のない場所に瘤ができたりします。また血流悪化によって起こった酸素や栄養不足を解消するためにもろい新生血管ができて、増殖・成長しながら血液や血液成分の漏れを生じさせます。進行すると硝子体出血や異常な増殖膜ができて眼底から網膜がはがれる網膜剥離を起こし、失明に至ることもあります。
また、糖尿病網膜症は初期段階でも糖尿病黄斑浮腫を起こすことがあります。黄斑は網膜の中心にあって、文字を読むなど細かい部分の判別に使われる重要な場所です。糖尿病黄斑浮腫では、血液や血液成分の漏出によって黄斑に浮腫(むくみ)を起こし、深刻な視力障害を起こします。
日本人の中途失明原因では糖尿病網膜症が長く2位を占めており、糖尿病と診断されたら症状がなくても定期的に眼科を受診し、網膜の状態を確かめる必要があります。
糖尿病網膜症(糖尿病黄斑浮腫)に対する抗VEGF薬治療は、健康保険が適用されます。
網膜静脈閉塞症
網膜に広がっている静脈が詰まって、行き場を失った血液や血液成分が漏出して網膜や黄斑に浮腫(むくみ)を起こしている状態です。静脈の先や根元など閉塞が起きている位置、浮腫の場所などにより、症状の内容はかなり変わってきます。慢性腎臓病や高血圧、動脈硬化などによって発症することが多く、40歳以上の日本人の50人に1人という頻度で発症するとされています。黄斑浮腫がある場合、抗VEGF薬治療が適応となります。
加齢黄斑変性
網膜の中心にあって文字の判別など細かい部分を見るために使われる黄斑がダメージを受け、機能低下を起こしている状態です。深刻な視力障害を起こし、失明に至ることもあります。網膜下にある脈絡膜から発生したもろい新生血管の増殖・成長によって起こった血液や血液成分の漏出によって起こることが多いとされています。高齢になると発症しやすくなり、喫煙は明らかなリスクと指摘されています。急速に進行する滲出型は、抗VEGF薬治療による治療が有効です。
強度近視(病的近視)
角膜からの長さである眼軸長が長く、網膜よりも手前にピントが合ってしまう状態です。眼軸長が長くなると眼底も引き伸ばされてしまうため、網膜などの眼底組織に深刻なダメージを与えることがあります。脈絡膜新生血管が発生し、黄斑浮腫や網膜剥離を引き起こして失明に至る可能性もあります。また、視神経がダメージを受ける近視性視神経症を発症するケースもあります。強度近視によって眼底に障害が及んでいる状態が病的近視です。なお、眼軸長が伸長する原因ははっきりとはわかっていません。
強度近視で脈絡膜新生血管が発生している場合には、抗VEGF薬治療が有効です。
硝子体注射(抗VEGF薬治療)の費用
糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、近視性脈絡膜新生血管
3割負担の場合 | 55,000円まで |
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1割負担の方(70歳以上の場合) | 14,000円まで |
3割負担の方(70歳以上の場合) | 56,700円まで |
レーザー光凝固術について
網膜など眼底にある病変にレーザーを照射し、焼き固めることで病変の拡大や病気の進行を阻止する治療法です。視力改善はできませんが、その時点での視力を最大限守るために行われます。悪化予防という観点からは非常に有効な治療法とされています。
治療適応疾患
糖尿病網膜症
糖尿病の高血糖によって血管がもろくなり、血液やその成分を漏れ出したりすることによって、血流が悪くなり栄養が行き渡らない無血管な部分ができる状態です。日本では中途失明原因の第二位を占めています。網膜上の血流が悪化している部分をレーザー照射で焼き固めることで、新生血管の発生を阻止します。
網膜静脈閉塞症
網膜の静脈が詰まって血流が悪化し、黄斑浮腫、網膜剥離、硝子体出血につながる疾患です。病変をレーザー照射によって焼き固め、新生血管発生することによって硝子体出血の予防や黄斑浮腫改善につなげます。
網膜裂孔
網膜が裂けて穴が開いてしまっている状態です。放置していると裂孔から水分が裏側に回って網膜剥離を起こしてしまうため、レーザー照射によって焼き固めて裂孔を塞ぎ、剥離を予防します。
中心性漿液性脈絡網膜症
網膜の下にある脈絡膜から血液やその成分が漏出して、黄斑部の剥離を起こしている状態です。自然に治ることが多いのですが、早期の回復や再発予防のために、漏出ポイントをレーザーで焼き固める治療が有効な場合があります。ただし、黄斑の中心窩に近い部分には行うことができません。
加齢黄斑変性
網膜中心にある黄斑が加齢によって機能低下を起こしている状態です。もろい新生血管が網膜下の脈絡膜から発生して生じることが多く、深刻な視力障害を起こします。急速に進行する滲出型の場合には早急な治療が必要です。中心窩以外の場所の治療でレーザーによる治療が行われることがあります。
レーザー光凝固術の費用
レーザー光凝固術は健康保険の適用内になる治療法です。疾患や病状によって治療内容や費用は異なります。診察や検査の結果によってレーザー光凝固術の内容が異なり、治療が必要になる際に費用はお伝え致します。